淫靡な夜

13/17
前へ
/50ページ
次へ
 下田の腰に両足を絡ませ、ぐいっと引き寄せてみる。 「安田課長……こんなことされても、ちょーっとまだ必死さが足りない、みたいな?」 「必死さが足りないなんて、酷いじゃないか。言われた通り、頼んでいるのに!」  両手を使えない体だったが何とか半身を起こし、唸りながら下田に抗議した。 「ご自分の立場を、よぉく考えてみてくださいよ。安田課長は両手を縛られて、なぁにも出来ないカメ状態なんです。僕だけが頼みの綱なんですよ」 「確かに、そうだが……」 「してほしいんですよね? 部下の僕にアレコレ」  くっくっくと笑いながら私の頭を掴み、起こしていた半身を力ずくで布団に押し戻した。しかも頭を掴んでいるてのひらを使って、じりじりと握りつぶす勢いで押し付けられ、苦痛しか感じない―― 「いっ、痛い……やめてくれ」 「可愛さ余って憎さがねぇ――どんな顔していても、本当にそそられてしまいますよ、安田課長」 「やめてくれ、本当に痛いんだって」 「まったく。ダメな上司ですね、頼み方を教えて差し上げたでしょう?」  冷たい声色が、更に恐怖心を煽ってきた。  ――下田は、どんな顔をしているんだろうか。  大きなてのひらで顔を塞がれているから表情が分からないが、きっと冷酷な目をしているんだろう。しかも無様な姿を晒し、部下に頼みごとをしなければ解放されない自分の事情に、もっと涙が出そうだ。  だけど―― 「……お願いします、この手を離してください」  消え入りそうな声でやっと告げると、呆気なく外してくれた。 「よく出来ました。偉いですね、安田課長は」 「…………」 「さて、次は何を頼んでくれるんですか? 苦痛の後の快楽は、いつもの倍以上に感じるものなんですよ」  言いながら頭を優しく撫でてくれるその手に、縋りつきたくなる衝動に駆られて。 「カゲ、ナリ――」  求めるように、名前を呼んでいた。
/50ページ

最初のコメントを投稿しよう!

178人が本棚に入れています
本棚に追加