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下田の腰に両足を絡ませ、ぐいっと引き寄せてみる。
「安田課長……こんなことされても、ちょーっとまだ必死さが足りない、みたいな?」
「必死さが足りないなんて、酷いじゃないか。言われた通り、頼んでいるのに!」
両手を使えない体だったが何とか半身を起こし、唸りながら下田に抗議した。
「ご自分の立場を、よぉく考えてみてくださいよ。安田課長は両手を縛られて、なぁにも出来ないカメ状態なんです。僕だけが頼みの綱なんですよ」
「確かに、そうだが……」
「してほしいんですよね? 部下の僕にアレコレ」
くっくっくと笑いながら私の頭を掴み、起こしていた半身を力ずくで布団に押し戻した。しかも頭を掴んでいるてのひらを使って、じりじりと握りつぶす勢いで押し付けられ、苦痛しか感じない――
「いっ、痛い……やめてくれ」
「可愛さ余って憎さがねぇ――どんな顔していても、本当にそそられてしまいますよ、安田課長」
「やめてくれ、本当に痛いんだって」
「まったく。ダメな上司ですね、頼み方を教えて差し上げたでしょう?」
冷たい声色が、更に恐怖心を煽ってきた。
――下田は、どんな顔をしているんだろうか。
大きなてのひらで顔を塞がれているから表情が分からないが、きっと冷酷な目をしているんだろう。しかも無様な姿を晒し、部下に頼みごとをしなければ解放されない自分の事情に、もっと涙が出そうだ。
だけど――
「……お願いします、この手を離してください」
消え入りそうな声でやっと告げると、呆気なく外してくれた。
「よく出来ました。偉いですね、安田課長は」
「…………」
「さて、次は何を頼んでくれるんですか? 苦痛の後の快楽は、いつもの倍以上に感じるものなんですよ」
言いながら頭を優しく撫でてくれるその手に、縋りつきたくなる衝動に駆られて。
「カゲ、ナリ――」
求めるように、名前を呼んでいた。
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