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私のデスクの横に佇む、部下がふたり――仕事がバリバリ出来まくる江藤と、新入社員の中で、最悪に仕事が出来ない宮本がいた。
そんなふたりに目をやってから、デスクの上に置かれている13,786円と書かれた領収書に視線を移す。
「休日を使って、わざわざこんな領収書のためにウラを取りに行くのは江藤らしいといえば、そうなんだがな……。お前はマルサでも警察でもないんだぞ。ウチのいち社員に過ぎん」
「お言葉を返すようですが営業1課の問題を起こした部長は、地方で接待と言いながら、不倫相手と密会を何度も重ねていたようなんです。ですので、その1枚の領収書だけとは限りません」
流暢に語る江藤を見てから、隣に並んでいる宮本を見てやった。私と目が合った瞬間、どうしていいか分からなくなったのだろう。落ち着きなく視線を彷徨わせる。
「なんだ、宮本。何か言いたげに見えるが? 弁解の用意でも出来ているのか?」
いつもコイツは私の顔を見るたびにおどおどして、何もしていないのに口を開くたび、すんませんしか言わないバカ社員のひとり。
「あの……すんません。店の物を壊すつもりは、まったくなかったんですけど――」
ほら、な。またこの言葉だ。もっとマシなひと言くらい、少しは言えないものか。
「安田課長、宮本が間に入ってくれなかったら、俺が1課の部長に首を絞められ、殺されていたかもしれません」
「(; ̄Д ̄)なんだと?」
「江藤先輩、そんなはな――ふぎょっ!?」
江藤が突然、宮本の口元を左手で覆った。
「何をしているんだ、江藤?」
「コイツが……宮本が責任を感じて謝ってばかりいるのを黙って聞いているのが辛くなり、口を塞ぎました」
「ふん、部下思いのいい先輩を演じて。無駄に苦労するな」
ケッと思いながら、デスクに頬杖をついてやる。
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