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「それで江藤、お前は本当に死にかけたのか?」
「はい、そうなんです。そんな俺を助けようと必死になった結果、宮本が店の物を壊してしまった次第です。この件については、俺にも責任がありますので、一緒に処分してください」
ぺこりと頭を下げる江藤に倣って、宮本も一緒に頭を低く下げた。
「そんな風に、頭を下げられてもね。処分を下すのは、上の仕事なんだしさ。みっともないから、ふたりとも頭を上げてくれって」
自分のことを『俺様』と言ってる江藤が頭を下げる様は、明らかに他の社員の目を惹くだろう。こんな茶番に巻き込まれるのは、ご免被りたい。
「さっさと業務に戻れ。お前たちの尻拭いは私の仕事だ。今後、こういうことがないようにして欲しいね」
呆れ返った言葉にもう一度謝罪し、頭を下げてから去って行く。そんなふたりの会話に、ちゃっかりと耳をそばだててみた。
「んもぅ江藤さんってば、首なんて絞められてなかったのに。相手を殺しかけていたのは、どこの誰ですか……」
「ぁあ゛!? 先に手を出してきたのは、あっちなんだぞ。俺様が制裁しなくて、誰がするんだ? こっちは休日叩いて、仕事に全力注いでるっていうのに、部長だからって会社の金を好き勝手にして、いいワケがなかろう。故にあれは社員皆からの恨み辛みを、思う存分に混ぜてやってだなぁ」
「だからってあんな風に、俺まで巻き添えにすることないじゃないですか。店の物を滅茶苦茶にするとか、マジでありえねぇ……」
「宮本、お前の普段の行いを思い返してみろ。俺様が見えないところで、どれだけ苦労しているのか――なので、その恨みを晴らしたまでだ」
(――おいおい、どっちが先輩か分かったものじゃないな)
額に右手をやりデスクに向かって、頭をうな垂れたときだった。突然背後から両腕を回され、ぎゅっと抱きしめられた。
「安田課長がこんな風に苦労しているお姿は、あまりにも可哀想過ぎます。僕が変わって差し上げたい」
耳元で囁かれる低い声色に、身の毛がよだつ。
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