淫靡な夜

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 そうあの時、いろいろ考えたのに――  安田課長との夜を過ごすべく、何かやらかしてやろうと策を練ったのにも関わらず実際は、出向いた企業側の不正を明るみにしてしまった。 「ウチの会社の部長と、連携を組んでいたなんて……。非常に嘆かわしい話だ」  キャバクラの割引券やピンサロの割引券等を手渡して、接待の日のアリバイを見事に裏工作していたらしい。それが分かったから、向こうさんも大慌て――話が上層部にまで行くこととなって、大ごとになった関係で、夜になってしまった。 「今夜は泊まりだが、大丈夫か。下田?」 「はい。明日が休みでよかったですよね」  んもぅ、全力で大喜びしておりますが! 「全然よくないんだぞ、まったく。ホテルがとれないんだ。連休の中日だから、連泊してる客で埋め尽くされていてな」 「はあ……?」 「だからそこに泊まるぞ。その前に買い物して行こうか」  真顔で言って指を差した先は、ラブホテル街だった。  いっ、いきなりラブホって安田課長、アナタって人は、もしかして僕のこと―― 「何を戦慄いているんだ。お前みたいな坊ちゃん、ラブホなんて泊まったことがないんだろう?」 「へっ!? いやぁ、まあ……」 「やっぱりな。覚えておけ、出張先で泊まるところがなきゃ、こういうのもアリなんだから。寝泊りできればいいんだし」 「……寝泊りだけ、ですか?」  疑問に思っていたことを口にしてみる。結構ドキドキ。  出張はペアで行ってるんだ。故に誰かとラブホに泊まっているワケで。   「男同士で泊まっているんだ、何かあるワケがないだろう」  眉根をぎゅっと寄せ、忌々しそうな表情を浮かべて、ひとりコンビニに向かって歩いて行く寂しげな後姿を目に留めた。 「僕らの世界では男同士だからこそ、何かがあるんですけどねー……」  コソッとごちてから、その背中を走って追いかる。  火のないところに煙を立てるべく燃焼しそうなモノを次々と投入し、炎上させようと試みている作者が結構必死になっているのを、安田課長はまだ知らなかった。
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