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「ここに泊まる。入るぞ」
「何か、決め手でもあったんですか?」
「別に……。何となくだ」
堂々と入って行く私の後ろをこそこそといった感じで背中を丸め、小さくなって後をついて来る。――やましいことをしてるワケじゃないのに、何だかなぁ……
「おい。そこにある、パネルの点灯されている部屋の中から選べよ。早くしないと後から来る客と、ばったり鉢合わせになるからな」
「は、はいぃっ! えっとえっと……、これにします!」
下田が選んだ部屋は、意外にも和室だった。和のテイストが見てとれるインテリアをしていて畳の上に布団が、ばーんと敷かれている部屋。
「おい、私に気を遣って、これにしたんじゃないよな?」
「いえいえ! 僕どっちかっていうとベッドより、布団の方が落ち着いて寝られるんで。安田課長と同じ昭和の男ですから」
なぁんて言いつつも、若干顔を引きつらせている下田に違和感を感じながらフロントに部屋番号を告げ、お金をスムーズに払い、鍵を受け取って指定した部屋に入った。
「へぇ、まあまあだな」
写真の映し方によって、部屋の奥行きを広く見せるワザがあり、大抵はこじんまりとした空間が多いのだが、このホテルは当たりらしい。男ふたり、ちまちました場所で一晩過ごすとなると、余計にストレスが溜まってしまうからな。
「あのぅこのビール、冷蔵庫にしまっておきますか?」
「ああ、そうしてくれると助かる。私は先に、シャワー浴びてくるから」
背広をさっさと脱ぎ捨てて、座椅子にかけた。
風呂はどこだとキョロキョロ見渡したら、アヤシゲな障子を見つけたので、勢いよく開け放ってみる。
目の前には、一畳程度のスペースとガラスの引き戸があって、そこを開けたら日本庭園がプリントされた壁に、樽を見立てたような丸い浴槽があるではないか!
「すごいなぁ……」
――この風呂に浸かりながら、ビールが呑みたい。
しかし部下がいる手前、だらしないところを見せるワケにはいかないか。
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