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「私達の間には、もう何も隠し事はありませんよね?」
「……ああ」
「だったら、もう一回言って……先生。嘘はもうイヤ。真実の中で初めからやり直したいの」
互いの心に手を伸ばそうとする様に、視線が濃厚に絡み合う。
トク…トク…トク…
甘い鼓動が聞こえる。
籠の中の鳥が空に恋するように、私はあなたに恋をした。
『あんたは、なぜ俺を拒絶するんだ』
――いつまでも、安全な籠の中で生きて行くことを望んでいたのに。
『ずっと見てた。あんたが気になって仕方ない』
――甘い香りを漂わせ、外の美しい世界に目を向けさせたのはあなた。
『目は口程に物を言う。麻弥、もう逃げるなよ』
――逃げられる筈が無い。籠の扉を開けたのはあなた。
空に放たれた鳥は羽を広げ、恋い焦がれた光の世界に羽ばたいて行くだけ。
わたしはもう、鳥籠の中には戻れない。戻りたくない。
だから言って。あの言葉を―――
「今夜一晩、おまえを買う。値段はおまえの言い値だ。おまえの価値は、いくらだ?」
彼は奏でるような声で言って、美しい栗色の瞳で私を見つめる。
「…お金は必要ありません。私が欲しいのは、あなたと過ごす永遠の時間。
命尽きるまで、私だけを愛して下さい。例え、私がよそ見をする時があったとしても、私だけを愛し続けると約束して下さい。それが、私の価値です」
「……ん?よそ見をする時があったとしても?」
不満げに眉根をピクリと動かす彼。
「自分の将来を捧げあなたのエゴイズムに付き合うんです。それに、私は自由になった身ですから。それくらい当然でしょ?」
私は口端を大きく引き上げ、これ見よがしにニッコリ笑う。
想定外の反撃に驚いたのか、彼は目を丸くし口を噤む。
「……面白い。ますます気に入った!」
「キャッ!」
突然と腕を引っ張られ、倒れ込むように私は彼に抱きしめられた。
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