第22話 【欲しいものは、…】

3/39
前へ
/39ページ
次へ
「私達の間には、もう何も隠し事はありませんよね?」 「……ああ」 「だったら、もう一回言って……先生。嘘はもうイヤ。真実の中で初めからやり直したいの」 互いの心に手を伸ばそうとする様に、視線が濃厚に絡み合う。 トク…トク…トク… 甘い鼓動が聞こえる。 籠の中の鳥が空に恋するように、私はあなたに恋をした。 『あんたは、なぜ俺を拒絶するんだ』 ――いつまでも、安全な籠の中で生きて行くことを望んでいたのに。 『ずっと見てた。あんたが気になって仕方ない』 ――甘い香りを漂わせ、外の美しい世界に目を向けさせたのはあなた。 『目は口程に物を言う。麻弥、もう逃げるなよ』 ――逃げられる筈が無い。籠の扉を開けたのはあなた。 空に放たれた鳥は羽を広げ、恋い焦がれた光の世界に羽ばたいて行くだけ。 わたしはもう、鳥籠の中には戻れない。戻りたくない。 だから言って。あの言葉を――― 「今夜一晩、おまえを買う。値段はおまえの言い値だ。おまえの価値は、いくらだ?」 彼は奏でるような声で言って、美しい栗色の瞳で私を見つめる。 「…お金は必要ありません。私が欲しいのは、あなたと過ごす永遠の時間。 命尽きるまで、私だけを愛して下さい。例え、私がよそ見をする時があったとしても、私だけを愛し続けると約束して下さい。それが、私の価値です」 「……ん?よそ見をする時があったとしても?」 不満げに眉根をピクリと動かす彼。 「自分の将来を捧げあなたのエゴイズムに付き合うんです。それに、私は自由になった身ですから。それくらい当然でしょ?」 私は口端を大きく引き上げ、これ見よがしにニッコリ笑う。 想定外の反撃に驚いたのか、彼は目を丸くし口を噤む。 「……面白い。ますます気に入った!」 「キャッ!」 突然と腕を引っ張られ、倒れ込むように私は彼に抱きしめられた。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1940人が本棚に入れています
本棚に追加