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「喜んでない!本当に今夜は無理!」
「ダメ」
「ダメって!……」―――――マジですか?
明らかに私をからかって、意地悪気な笑みを浮かべる彼。
フロントガラスから差し込むのは帰路を照らす澄んだ月明かり。
まどろむような静けさの中に二人の声が溶け込んでいく。
今、私の隣にはあなたがいて、
あなたの優しさと温もりを感じる。
それだけで満たされて、胸がいっぱいになる。
あなたがいない未来なんて考えられない。
「先生……」
「ん?どうした?」
「今夜、乾杯しようよ。初めて先生の家に家政婦として迎え入れてくれた、あの夜みたいに」
街の明かりが映し出す彼の横顔を見つめ、零れるような笑みで頬をほころばせる。
「そうだな、あの日と同じようにシャンパンで乾杯しよう。……麻弥、ありがとう」
彼は私の手を握り、水面に風が波紋を描くような静かな笑みを浮かべた。
きっと、
未熟だった頃の辛い過去も、あなたに恋をして突き当たった葛藤も苦しみも、全てはこの日のために与えられた試練なんだ。
今日という日を忘れずにいたら、一緒に過ごす時間の大切さを忘れずにいたのなら、この先何があっても乗り越えられる。
先生と咲菜ちゃんがいてくれるなら、他には何も要らない。何も怖くない。
「……ずっと私の側にいてね」
「ああ、ずっと側にいる。約束する」
溶け合うように重なる手の温もり。
「先生、愛してる」
「俺も愛してる。麻弥」
そこに雪菜さんの存在があっても、あなたの『妻』にはなれなくても、心の孤独に打ち勝ってみせる。
もう迷わないと、そう決めたから。
愛してる……
これからもずっと、あなただけを……
私は愛しい人の大きな手を握り返し、夜空に浮かぶ凛とした月に永遠の愛を誓った――――。
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