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メンヘラ少女と空っぽ少年
《新宿歌舞伎町 23時30分》
雨上がりの歌舞伎町は、今日も多々ある煌びやかなライトで道行く人を誘っていた。
奇抜な髪型、キラキラと光を跳ね返すアクセサリー、堅気には見えないスーツの男、カラフルな髪色の女、多種多様な人種が一点に集まり昼とはまた違う「空気」を作り出している。
そんな繁華街から1つずれたホテル街では、そういった男女を受け入れるかのように、不気味で魅力的なライトが体にまとわりついてきた。
その中の1つ、豆電球で着飾った看板の下を、周りの空気とは不釣り合いな幼い少女と一見父親にも見える男性がくぐり抜けてきた。
「今日はありがとね、ゆずちゃん。今度また時間あったらおじさんと会ってよ、お小遣いは渡すから」
「…はい、それじゃあ今日はこれで」
揃えられた前髪から猫のような目が覗く。
感情のない、人形のような、そんな表情を浮かべる彼女は、男性の返事を聞く間もなく背を向けて歩き去る。
男性が何かを言っているようだが、彼女にはもう聞こえない。
耳に入れたイヤホンからは、ヴィジュアル系の音楽が流れ出していた。
ホテル街を抜け繁華街に戻った彼女は、そのまま迷いのない足で歩く。
ふと立ち止まり、バッグから白いパッケージの箱を取り出した。
銀紙の部分をトントンと叩き、一本弾き出すと、そのまま口に咥え火をつける。
感情のない目には、少しだけ色が戻っていた。
また歩き始める、彼女の歩いた道をなぞるように吐き出された煙が消えていった。
そこに、先ほどの男性とは違い、派手なシャツに黒のジャケット、リングやピアスで着飾った若い男が現れ、
「遅いよゆずー。外暑いし、早くお店はいろ?」
と、口元のピアスを揺らしながら話す。
「うん、今日はけっこー飲みたいから付き合えよ」
「あはは、いつものことじゃん。店のもの壊さないでね」
若い男に腕を引かれ、少女は軽い足取りで店へと入っていった。
先ほどまでこの町に不釣り合いだった彼女は、今では不気味なほど自然に溶け込んでいた。
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