1970年・秋 4

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ざっくざっくと庭に穴を掘る。  もう少し深い方が良いだろうか。  ぷんとかおる土の湿った青くさいにおいと、虫たちがあわてて這い出す様をぼんやりと見る。  傍らには、タオルでくるんだ小さな塊、都が横たわっている。  都は、みゃーこみゃーこ鳴くから、と母がつけた名だ。  三毛の、気ままな猫だった。  猫だから、紐でつながないで好きにさせてあげましょう、と餌をあげる時以外は放して飼っていた。  猫を家に入れて以来、母の突然の遠出という名の家出は減ったので――世話をしないといけないでしょう? と都に頬擦りしていたっけ――父は我が家の救世主と呼んでいた。  母が、半ば強制的に入院させられたのが昨日、今日、病院から帰って見た玄関先の側溝に、ころりと転がっていた。  車に轢かれたのか、毒団子でも食べてしまったのか。  事切れた身体はすでに固かった。  痛々しい怪我がないのが救いだった。  母さんに言えない。  都の世話があるから、と渋っていたのを引きずるように連れて行ったんだ。後は任せてと言ったのに。  ずるいぞ、都。先に逝ってしまうなんて。僕をなぐさめてもくれないのか。  これ以上はいらないというくらい深く掘って、都を横たえる。  彼女は本当に小さくて、慎一郎は泣けて仕方なかった。  今日は泣いてばかりだ。
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