【 4 】時が止まってしまえばいい

3/7
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
 澄ましているだの。  お高くとまっているだの。  ――冷たいだの。  再会してからの慎は、茉莉花を無機質な女と公言していた。  言われる度に心が痛んだけれど、乗務中なら、人前なら、いくらでもやりすごせた。  今はだめだ。耐えてきた心が、悲鳴を上げた。 「ええ、そうなんですの」  真逆のことを言って、自分を守った。 「尾上様が良くご存知かと」  嫌な女と軽蔑してくれれば――本望?  その通りよ、仕方ないじゃない! 「――失礼」  語尾が震える自分が滑稽だ。  しっかりして、私!  いつものようにドアの向こうへ行こうとする彼女の行く手は、慎の手に遮られた。 「まだ、話は終わっていない」  静かな声が、おそろしいと思ったら、彼女は手首を引っ張られ室内に連れ戻される。ドアの鍵が掛かる音が、やけに大きく聞こえた。 「君には夫がいるそうじゃないか」  ぱん、と平手で殴られた時と同じ衝撃だった。 「何故それを――」 「君の兄上に聞いた」 「それは」  だってあなたはいなかった! 親から命ぜられれば、子供だった私に拒めるわけないでしょう?  いつもの茉莉花なら言い返せた言葉が、何故か出てこなかった。舌が凍りついて動かなかった。 「私を好きだと言った口で、他の男の妻になったのか」  低い声が、ひたすら冷たく、彼女は竦む。彼の怒りが理解できず、戸惑った。 「嘘だったのか」 「ちが……」 「違わないだろう」  こわい。  茉莉花は握られた手首を剥がそうとしたが、しっかりと掴まれた手は緩まない。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!