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澄ましているだの。
お高くとまっているだの。
――冷たいだの。
再会してからの慎は、茉莉花を無機質な女と公言していた。
言われる度に心が痛んだけれど、乗務中なら、人前なら、いくらでもやりすごせた。
今はだめだ。耐えてきた心が、悲鳴を上げた。
「ええ、そうなんですの」
真逆のことを言って、自分を守った。
「尾上様が良くご存知かと」
嫌な女と軽蔑してくれれば――本望?
その通りよ、仕方ないじゃない!
「――失礼」
語尾が震える自分が滑稽だ。
しっかりして、私!
いつものようにドアの向こうへ行こうとする彼女の行く手は、慎の手に遮られた。
「まだ、話は終わっていない」
静かな声が、おそろしいと思ったら、彼女は手首を引っ張られ室内に連れ戻される。ドアの鍵が掛かる音が、やけに大きく聞こえた。
「君には夫がいるそうじゃないか」
ぱん、と平手で殴られた時と同じ衝撃だった。
「何故それを――」
「君の兄上に聞いた」
「それは」
だってあなたはいなかった! 親から命ぜられれば、子供だった私に拒めるわけないでしょう?
いつもの茉莉花なら言い返せた言葉が、何故か出てこなかった。舌が凍りついて動かなかった。
「私を好きだと言った口で、他の男の妻になったのか」
低い声が、ひたすら冷たく、彼女は竦む。彼の怒りが理解できず、戸惑った。
「嘘だったのか」
「ちが……」
「違わないだろう」
こわい。
茉莉花は握られた手首を剥がそうとしたが、しっかりと掴まれた手は緩まない。
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