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「大嫌いだ、男はみんな大嫌い! 慎さんもあの男も――! もう好きにすればいいんだわ! 許せないのなら、好きになさいよ!」
顔を覆って、おこりを起こしたように彼女は震え、嗚咽した。
太腿を開き、叩き付けるように彼女を抱えた彼の手が緩んだ。
彼女の足首に、申し訳程度に下着がぶら下がる。
襟元やまくれたスカートの裾を直して、身を起こした男の身体が、今度は包むように彼女を抱く。
「泣くな――泣かないでくれ、茉莉花」
苦しそうに囁く声が、彼女の涙をさらに誘う。
耳元へ頬を寄せる様が嬉しく、彼女に、陽だまりの記憶を運ぶ。
初めての、逢瀬の、やさしい手を。
慎は歯の間から、振り絞るような声で言った。
「どうして、待っていてくれなかったんだ。帰ってくると、必ず君の元へ帰ると、言っていたのに」
「待ったわ、私、ずっと待っていたのに、だけど!」
「結核だったんだ」
慎は言った。
「隔離されてどうにもならなかった。次郎に手紙を託した――届いてないのか?」
「……手紙?」
目を見開いて、彼女は彼を凝視する。
知らない!
届いていない?
ふたりは瞬時にお互いの心情を慮る。
泣きそうな顔をしてこちらを見る瞳は、彼女が知っている男の顔だった。
茉莉花は、直に見たいと、眼鏡に手をかけて顔からすべらせた。
笑うと少し目尻が下がる、優しい目元が好きだった。あの頃のままの彼がいた。
嘘は言っていない、この人は。
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