【 4 】時が止まってしまえばいい

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「大嫌いだ、男はみんな大嫌い! 慎さんもあの男も――! もう好きにすればいいんだわ! 許せないのなら、好きになさいよ!」  顔を覆って、おこりを起こしたように彼女は震え、嗚咽した。  太腿を開き、叩き付けるように彼女を抱えた彼の手が緩んだ。  彼女の足首に、申し訳程度に下着がぶら下がる。  襟元やまくれたスカートの裾を直して、身を起こした男の身体が、今度は包むように彼女を抱く。 「泣くな――泣かないでくれ、茉莉花」  苦しそうに囁く声が、彼女の涙をさらに誘う。  耳元へ頬を寄せる様が嬉しく、彼女に、陽だまりの記憶を運ぶ。  初めての、逢瀬の、やさしい手を。  慎は歯の間から、振り絞るような声で言った。 「どうして、待っていてくれなかったんだ。帰ってくると、必ず君の元へ帰ると、言っていたのに」 「待ったわ、私、ずっと待っていたのに、だけど!」 「結核だったんだ」  慎は言った。 「隔離されてどうにもならなかった。次郎に手紙を託した――届いてないのか?」 「……手紙?」  目を見開いて、彼女は彼を凝視する。  知らない!  届いていない?  ふたりは瞬時にお互いの心情を慮る。  泣きそうな顔をしてこちらを見る瞳は、彼女が知っている男の顔だった。  茉莉花は、直に見たいと、眼鏡に手をかけて顔からすべらせた。  笑うと少し目尻が下がる、優しい目元が好きだった。あの頃のままの彼がいた。  嘘は言っていない、この人は。
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