【 4 】時が止まってしまえばいい

6/7

6人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
「次郎が出征する前に――今は会えないけれど、必ず病気を治して帰ってくるから、待っていて欲しい、と」 「知らない……知らなかった、私……」 「何てことだ」  いやいやをするように、茉莉花は何度も首を横に振る。額に掛かる彼の前髪を撫でて言った。 「戦争で――戦地で死んだとばかり思ってた、私」  万力で締め上げるように抱きしめる彼の背に、彼女も精一杯しがみついた。 「会いたかったのよ、私、慎さんだけ……」 「やっとの思いで外へ出られて……。まっ先に君の家に行った。君は嫁いでもういないと兄上に言われて……絶望した――。ばかだ、探せば良かったんだ、なのに、私は、君より、兄上を、信じたんだ!」  何故、私たちは擦れ違ってしまったのか、隔たったのか――  再会してからずっと思ってた、見えない壁に阻まれていた、と。  壁などなかったのに、最初から。  でも、お互いが見えなくなっていたのだ、仕方ないではないか。  でも……ひどい。何故なの!  彼女は泣いた。泣かないでくれ、とあやすように言う慎の声が嬉しくて辛く、涙は止まらない。  いくら泣いて懇願しても、私と彼が一緒になることはない。子供を自慢する、慎の姿。愛しそうに語る父親にした女は私ではないのだから。  でも――  今だけは。  この腕から離れたくない、このまま時が止まってしまえばいいのに!
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加