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お互いを抱き留める手が、背に回された手の平が、息づかいを乗せて慕わしく触れ合うものに変わる。
この感覚は――そう、初めて彼に抱かれた時、お互いが求め感じたものに似ている。
正しいことだと信じて、私は彼と肌を重ねた。あの時は結ばれなかったけど――
頬を、髪を撫でさする手から、指輪の感触が伝わる。彼の指に目を向けた彼女は顔をゆがめ、さらに涙を流した。
慎は身を起こし、左手指から指輪を引き抜いて床へ投げつけた。カン、と一回金属音を立て、金の指輪はころころと床を転がっていった。
――もう、引き返せない。
「大好き、慎さん」
茉莉花は自分の方から重ねるだけの口づけをした。彼女から離した唇は、強く、深く、塞がれる。
薄く開いた瞳に、天井の模様が映る。そして、慎の顔。
私、この光景を、一生忘れない……
茉莉花は目を閉じ、腕を、足を広げて彼を迎え入れた。
男にはやはり疎い彼女は、初めての時よりははるかに優しく、いたわるように抱く彼の手に全てを任せた。
西日射す室内はほの暗く、今日はまだ終わりそうにない。
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