【10】幸子の告白 

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幸子はその時、初めて婚約者の行状を知った、一見好青年で紳士に見える彼は、その実女性関係にだらしなく、容姿にひかれた女性と無節操に関係を持った。一夜限りのアバンチュールは数限りなかった。乱れた生活をしていれば、いつかはこういうこともあろうかと、年長者はたしなめたが元々の性質は変わらない。見抜けない女が悪いのだと彼は開き直った。 回りが右往左往する中、腹の子をもって妻の座を自認する女性と、のらくらとはっきりしない婚約者、幸子と、三人の時は止まっていた。 傷付いた花嫁はその場から剥がすように退場させられ、彼女はひとり茫然としていた。 やさしい人だと思っていたのに、そのやさしさは嘘だったの。 つまらなそうにそっぽむく、今の姿の方が本当なの。 がたがた震えながら暗い室内で一人へたりこむ彼女に、可哀相にと声をかける者がいた。 花婿の兄弟だった。 君は悪くないんだよ、と慰められ、そうか、私のせいじゃないんだ、と思うと涙が止まらなかった。 何故、と問うと、可哀相に、とだけ相手は言った。 激した心のまま、涙を流す彼女の肩を抱き、髪を撫でる。父親ですら親密にかまわれた記憶がなかった幸子に、触れる男性の手は温かかった。 心地良いと思ってしまった。 気がつくと彼女は畳の上に組敷かれていた。 変だ、これがなぐさめるということなの?  違う! 何かおかしい! 絡んでくる手をはがそうとしても無理だった、この日の為に用意した、精一杯の晴れ着が乱されていく。
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