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いやだ、誰か助けて! と天井の板の間を苦々しく見つめていた時だった、「何をしている!」と罵声が響いた。
引き戸ががらりと開き、人の気配がする。
婚約者とその両親だった。
ほぼ全裸に等しい幸子と相手の男は申し開きができない状態だった。
助かった、と口を開きかけた時だった、「男だったら誰でもいいのか」
花婿の言葉だった。
隣にいた男はすでに姿はなく、ついさっきまで眉をひそめられていたのは乱入してきた女性だったのに、同じ眼差しを幸子が向けられている。
「浮気性の女だから余所に逃げざるを得なかった」
息子の言葉を、花婿の親や親族はあっさり信じた。
「恥ずかしい、とんだ醜聞だ」
幸子は詰られ、彼女の親も半ば信じてしまった。
身持ちの堅い女なら男もその信頼に応える。余所に女がいるのも、ひいては女の側に問題がある、情けないと。
とどめは、花婿の兄弟が放った言葉だった。
「誘われたから応じただけ。生娘ではなかったぞ」
今の今まで、婚約者以外の男性と交際したことはなく、婚約期間中も接吻はおろか満足に手も握ったことがなかった彼女はもちろん清かった。
花婿の兄弟に手を出された時も、果たして最後までいきついていたのか、男の経験がないから彼女にはわからない。ただ恥ずかしく、何をされているのかわからず、身体をいじられるのがいやでいやで、自分ですら触れたことがないところへ手が伸びた時、死んでしまいたくなった……
だけど、誰も彼女の言葉を信じてくれなかった。
見た光景が全てで、ふしだらな女の烙印を押された幸子は、当然ながら結婚は破談。隣組から白眼視されてご近所に恥ずかしい、顔向けができないと言われ、実家では針のむしろに座っているような日々が続いた。
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