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「春妃ちゃんの声の方が耳障りいいんだよね、母さんのダミ声より」
絡んだ気がした視線は、不意に和らいで笑いながらイヤホンを片耳に差した。
私はそれを、少しぼんやりしながら見ていたらしい。
「どうしたの?」
キーボードに両手を置き、スタンバイOKの颯介くんが、不思議そうに首を傾げてそう言った。
「あ、なんでもない! はじめよっか」
私も慌てて付箋を貼った場所まで資料をめくり、コホンと一つ咳払いをすると。
先週の続きから、読み始めた。
どれほども、長く読んでいなかったと思う。
颯介君のキーボードを打つ音が、途切れた。
私も読むのを止めて、不思議に思い顔を上げて尋ねる。
「どうしたの?」
「春妃ちゃん、具合悪い?」
「え、そんなこと、ないけど。なんで?」
そう言いながらも、言われてみれば確かに。
図書館まで歩いて来る時も、いつもより足が少し重かった。
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