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額に当てていたハンカチを手に取りながら、身体を起こして周囲を見渡す。
颯介くんの姿がなく、隣の席にあった彼の荷物も白杖もなくなっていた。
「颯介くんは?」
「帰った」
机の上に広がった私の荷物をてきぱきと享がまとめる。
なんだか、少し違和感を覚えて首を傾げた。
寝てしまっても、彼なら私が目を覚ますのを待っててくれそうな気がしていたから。
肩にあったひざ掛けをとって膝の上で畳みながら、私は亨を見上げた。
「ハンカチ冷やして来てくれたりしたの。お礼言えなかった」
「また電話ででも言えよ。ほら帰るぞ」
そう言って椅子に掛けてあったコートを渡され、受け取って袖を通した。
なぜか椅子に座る私の真横にきて背中と膝の裏に腕を差し入れる。
「ちょちょ……すとっぷ!! 何してんの?!」
「何って、車まで運ぶんだろうが」
やかましい、とでも言いたそうに眉根を寄せる。
ってか、何当たり前のように姫抱っこしようとしてるのか。
「目立つから止めて!! 自分で歩けるってば」
私はその額に手を当てて、ぐいっと押しのけた。
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