それって女がよく言うやつ。

25/35
前へ
/35ページ
次へ
額に当てていたハンカチを手に取りながら、身体を起こして周囲を見渡す。 颯介くんの姿がなく、隣の席にあった彼の荷物も白杖もなくなっていた。 「颯介くんは?」 「帰った」 机の上に広がった私の荷物をてきぱきと享がまとめる。 なんだか、少し違和感を覚えて首を傾げた。 寝てしまっても、彼なら私が目を覚ますのを待っててくれそうな気がしていたから。 肩にあったひざ掛けをとって膝の上で畳みながら、私は亨を見上げた。 「ハンカチ冷やして来てくれたりしたの。お礼言えなかった」 「また電話ででも言えよ。ほら帰るぞ」 そう言って椅子に掛けてあったコートを渡され、受け取って袖を通した。 なぜか椅子に座る私の真横にきて背中と膝の裏に腕を差し入れる。 「ちょちょ……すとっぷ!! 何してんの?!」 「何って、車まで運ぶんだろうが」 やかましい、とでも言いたそうに眉根を寄せる。 ってか、何当たり前のように姫抱っこしようとしてるのか。 「目立つから止めて!! 自分で歩けるってば」 私はその額に手を当てて、ぐいっと押しのけた。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2049人が本棚に入れています
本棚に追加