プロローグ

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使った力はほんの僅かなものだった。 悪影響は無いはずだ。 こんな小さな赤ん坊に力を使うのも気が引けたが、眠らせておいた方が色々と動きやすい。 それに、理解出来ないだろうが両親の変わり果てた姿など見せるべきではない。 なるべく揺らさないように、彼は梯子を登った。 もうこの小屋に用はない。 見られている気がした。 彼は横に目を向ける。 目が合った。 男の死体。何も変化はない。 だが、事切れて尚その視線には強い感情と意志が宿っている気がした。 怒り、怨恨、悲愴。 歪められた顔から強烈な負の感情が滲み出ている。 さぞ、悔しいだろう。 使命を果たせず、討つべき敵に殺された。 愛する妻も守れなかった。 さぞ、無念だろう。 息子をその手に抱くことも、教え導くことも出来ない。 名前を呼ぶことも、父と呼ばれることさえ叶わない。
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