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端正な顔に笑みが浮かんだ。
恥ずかしさから、ついジュノは自身の癖の強い黒髪を掻き上げる。
屋敷の一角にある応接室。
そこに彼らはいた。
使者として訪れた領主の息子、イヴァン・アレクサンデル。
館の主、ラドゥ・バルバト。
ラドゥの両脇に控える、ジュノとアーガイル。
アーガイルは、ラドゥの私兵隊を率いる謂わば隊長である。
ジュノにとって上司であり師匠とも呼べる存在だった。
三十半ばのこの偉丈夫は、ラドゥの傍で直立不動のまま黙している。
広い空間に男四人。女中の姿もない。
語る話は些か物騒なものだった。
「『吸血鬼』など俄かには信じ難い話ですし、真偽の程も不明です。しかし、これをただの噂話と片付けることが出来ない事態に陥りました」
イヴァンはそこで言葉を区切り、紅茶を口に運ぶ。
「我がアレクサンデル領の東端にあるウールドゥ山。その麓にある複数の村で大規模な拉致事件が発生しました。行方不明者は百名にも上ると報告が上がっております」
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