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「……手遅れだったか」
彼は一人呟く。
それを聞く者はいない。
人里離れた山の中、ひっそりと佇む小屋。激しい雨音が響き、時折閃く稲光以外に灯りはない。
彼は一人佇む。
彼の望む結果を得ることは出来なかった。
頭巾の付いた黒いローブに全身を覆われ、その表情を覗く事は出来ない。
纏うローブは濡れ、滴る雫が床を濡らす。
暗闇に慣れた彼の目に映る、二分されたテーブル。
脚の折れた椅子。
割れた食器。
そして、横たわる一組の男女。
生死を確かめるまでもなかった。
女は首を断たれ、男は胸に大きな風穴を開けている。
流れ出る血は止まることを知らず、大きな血溜まりとなってその領域を広げていく。
このような姿になって尚、男の手には折れた剣が力強く握られていた。
さほど時間は経っていない。
色濃く残る争いの形跡もそれを物語っていた。
微かに男の手が動いた気がした。
生きているのかもしれない。
気のせいかもしれない。
そこに、大した意味や違いはない。
肺は潰れ、心臓は在るべき位置にない。
明らかな致命傷だった。
数秒後、数分後には一つの結末に収束する。
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