1人が本棚に入れています
本棚に追加
手遅れだった。ならば、せめて。
少し荒れた息を整えながら、彼は静かに部屋を見渡す。
彼の立つ位置の反対側の扉、その奥。そこではない。
見上げる。屋根裏。そこでもない。
どこだ。
一刻を争うという程ではないが、あまり時間が無いのも事実。
いずれ奴は嗅ぎつける。今見つかることだけは絶対に避けなければならない。
どこにいる。
儚い光。聖なる力。
微かに感じる。確実に存在する。
彼は目を閉じ、精神を集中させる。
視覚は邪魔だった。聴覚も嗅覚もいらない。
集中する。
雨の音が聞こえなくなる。血の臭いが薄れていく。
光。聖なる力。その源。
彼は目を開けた。感覚が蘇る。
見つけた。
この部屋。惨劇の場。その中心。二つの死体が横たわる所。
だが、そこではない。その下。地下から感じる。
そこに、いる。
最初のコメントを投稿しよう!