プロローグ

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呆けている暇はない。 彼は梯子に足を掛け、地下室へと降りていく。 一段降りる毎に、近づく程に光の力が強くなる。 底に足を着き、はやる気持ちのままに振り返る。 「……見つけた」 彼は思わず目を細める。 低い天井。手を挙げれば楽に届く。ほぼ同じ大きさの幅と奥行き。 その狭い空間を形造る無機質な石壁。 家具や調度品の類はほとんどない。息苦しささえ感じる。 しかし、そこは暖かみのある光で満ちていた。 「……君が」 床一杯に描かれた赤い円と五芒星。 隙間なく書かれた文字や図形。 魔法陣の一種。儀式の跡。 星の各頂点に置かれた蝋燭。しかし、火は消えていた。 場を照らす柔らかな光の源は、聖なる力の源は、その中心。 「君が……」 その名を呟く。 そこには赤ん坊がいた。
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