1人が本棚に入れています
本棚に追加
柔らかく、染み一つない真っ白な布に包まれた赤ん坊。
静かに寝息を立てていた。
生まれてから幾日も経っていないだろう。髪は薄く、皺も残っている。
光を放っていたのはその赤ん坊だった。
淡く儚い、しかし一片の穢れもないその光は、闇に慣れた彼の目には些か強すぎた。
それでも、視線を逸らすことなくゆっくりと赤ん坊の元へ行く。
赤い円に足を踏み入れた瞬間、光が急激に弱くなる。
それは、彼が不純物だから。余計な物が入ったために魔法陣の効力が落ちた。
しかし、大して意味はない。
魔法陣は既にその役目を果たしていた。
光は副産物に過ぎない。
赤ん坊の傍に膝をつく。
上階で起きた惨劇も、両親の身に起きた悲劇も知らず、穏やかに眠っている。
彼はゆっくりと手を伸ばす。
しかし、その手が途中で止まる。
彼は迷っていた。
(……迷っている?)
なにを迷う必要があるのか。
為すべきことは決まっている。
時間もあまりない。
早急にここを立ち去らねばならない。
最初のコメントを投稿しよう!