プロローグ

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柔らかく、染み一つない真っ白な布に包まれた赤ん坊。 静かに寝息を立てていた。 生まれてから幾日も経っていないだろう。髪は薄く、皺も残っている。 光を放っていたのはその赤ん坊だった。 淡く儚い、しかし一片の穢れもないその光は、闇に慣れた彼の目には些か強すぎた。 それでも、視線を逸らすことなくゆっくりと赤ん坊の元へ行く。 赤い円に足を踏み入れた瞬間、光が急激に弱くなる。 それは、彼が不純物だから。余計な物が入ったために魔法陣の効力が落ちた。 しかし、大して意味はない。 魔法陣は既にその役目を果たしていた。 光は副産物に過ぎない。 赤ん坊の傍に膝をつく。 上階で起きた惨劇も、両親の身に起きた悲劇も知らず、穏やかに眠っている。 彼はゆっくりと手を伸ばす。 しかし、その手が途中で止まる。 彼は迷っていた。 (……迷っている?) なにを迷う必要があるのか。 為すべきことは決まっている。 時間もあまりない。 早急にここを立ち去らねばならない。
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