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喫茶店『時忘れ』で静佳の妹、夢葉が口にしたのは明日香が知っている話と少し違っていた。
「なに?幸福の手紙って」
コーヒーサイフォンで注文したコーヒーが抽出されている間に明日香は夢葉に聞き返す。
『不幸の手紙』なら明日香は聞いたことがある。約二十年前に世間で流行った陰湿的な遊びである。見知らぬ赤の他人に『不幸の手紙』というのを送りつけ、決めたら人数に手紙を送らなければ、手紙を最初に受け取った人が不幸に見舞われるという。しかも、送る内容の文面まで決められており、手紙に書かれている内容をそのまま書けというのだ。送られた相手は当然、不幸を恐れて同じ内容の手紙を書き赤の他人に送る。受け取った人は、また別の誰かに手紙を送る。
こうして、手紙はねずみ算式に増え続けていき、世の中に蔓延した。悪質なイタズラである。不幸と手紙には何の因果関係もないが、人は無意識に周りで起こった些細な不幸を手紙のせいにし、真実味を負わせ、不幸の手紙を成長させた。一時は社会問題になるぐらいにまで、成長をしたが、手紙というアナログなは、電子メールというもっと便利な伝達手段の普及に伴い姿を消した。マスコミや雑誌が大きく扱った噂のあっけない末路だ。もっとも、今でもチェーンメールという形で何と形を留めようとしてはいるが、チェーンメールですら消えかけている。
こうしてみると、もっとも不幸を背負ったのは手紙、そのものだったかもしれない。
「一応、後輩から借りてきたのですが」
夢葉はそう言って、通学鞄から綺麗な封筒を取りだした。可愛らしい便箋で、ホップな文字で宛先が書かれていた。見掛けは普通にしか見えない。夢葉は封筒を開き中に入れられていた手紙を明日香に見せた。
【これは『幸福の手紙』です。この手紙を受け取ったアナタは必ず幸せになれます。この幸せを誰かに分け与えたければ、同じ文面の手紙を他の人に出してください。】
何だか怪しい宗教への勧誘する手紙ににていた。書かれている文面は不幸の手紙に比べれば、ずっと、平和的な内容に感じられた。
一見した限りでは、特に怪しい点は見つからない。
「なんだか。胡散臭い手紙ね。ツジリーはどう思う?」
「・・・・」
明日香は静佳に手紙の内容について意見を求めたが、彼は夢葉の隣で窓側、ギリギリまで身を寄せてスマホの画面をタップしていた。
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