第1章

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「少々、お待ちください。・・・岩田プロデューサー、アキ様がいらっしゃってます・・・はい・・・・はい。はい」 「岩田さんという方なんですね」 「はい。あの、会われたことは・・・」 「あるんですが、名刺をもらい忘れまして」 「岩田がすぐ参りますので少々お待ちください」 受付嬢が正司にニコリと微笑みかけた。 「どうも」 「あ。きた」 確かにリオがガマガエルというだけの事はある。 「よくきてくれたねアキ君。CDの予約。順調だよ」 正司の腹の中も知らず、岩田は上機嫌だ。 「そちらの彼は? 」 「あ。店のマスターです」 「あぁ。そういえば、みたことのある顔だ」 がはは。 となにが面白いのか笑っている。 「CD発売の件でお話があるのですが、いまお時間よろしいでしょうか」 「え? もう2枚目発売ですかぁ? 」 がはははは。 「今回のCD。不当に制作されたものですので、発売中止していただきたい」 すっと岩田の表情が曇る。 「・・・・・・・もう世の中の人はアキの演奏を聴いている。発売されたも同じだと思わないかね」 「裁判になったとき、結果失うモンがデカイのはどっちだと思います? 岩田さん」 「世の中はアキを求めてるんだ」 「なんなものはアキじゃない。それに。アナタ、自分が失うもんのデカさが分かってないみたいですね・・・」 「ひっ」 正司が岩田の胸ぐらを掴み。顔を引寄せ耳打ちした。 「わ・・・わかった。発売は中止する。約束する」 「予約受付の撤収も早々によろしくお願いしますよ、 『是枝』 サン」 岩田はその場にしゃがみこんでいた。 「行こう。アキ」 「う、うん」 アキが振り向いたとき、まだ岩田はしゃがみこんだままだった。 いったい正司は岩田の耳元で何を言ったのだろう。 「正司さん」 「なんだい? 」 「なんて言ったの? 岩田さんに」 「現実を教えてあげただけだよ。悪いおじさんに。裁判に負けたら、懲戒免職と会社からの損害賠償。どんだけの額になると思う? って」 もちろん、尾びれ背びれたくさんつけて。 「ふぅん。でもなんで耳打ち? 」 「可愛い受付嬢に聞かれたら可哀相でしょう」 「可愛い? 」 「アキの方がずーっと可愛いけどね。さ。帰ろう」 会社を出ると、すっかり暗くなっていた。 「半端な時間になっちゃったね。お店。開ける? 」 「いや。今日はもう、疲れたから帰ろう」
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