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アキはケータイを差し出した。
表情を引き締めた正司がケータイに出る。相手がリオであったことにまず安堵し。それから状況を詳しく聞き始めた。
アキからもあの日の行動や会った人物などを詳しく聞き、正司は考え込む。
「とりあえず、僕らもお店を見てみよう」
家から一番近くのCDショップに行ってみると、ピアノのイメージ写真にAKIと大きなロゴ。全体にエロティックなデザインが施されたポスターが貼ってあり、こんなキャッチが書かれていた。
『貴方のしがらみ奏でます。新宿二丁目より愛をこめて』。
歌謡曲のヒットナンバーをアキにいいように弾かせてそれをそのまま商品にしてしまっていた。
『「他人の関係」カラオケつき』 となっている。あの伴奏だけ弾かせたのはこれが目的だったわけだ。なんと、こズルイ。
ポスターの角のほうに、小さくピアノ・AKIと書いてある。
なんの契約書も交わしていない。丸っきりの詐欺だ。
「正司さん。ごめんなさい・・・」
「まだ諦めるのは早いよ、アキ」
「だってもう」
「見てごらんアキ。ポスターのレコード会社名」
「あっ」
「アキが会っていた担当者は170センチくらいの痩せ型の男性かい? 」
「うんん。太ってて、あぶらっぽくて大きなカエルみたいな人」
「ガマガエル・・・」
ふたりは騙されていたことに気付く。
正司はポスターのレコード会社の名前をケータイで検索し始めた。
小さな会社だったが、ほどなく住所と電話番号がわかった。
が、相手の名前がわからない以上、会社に乗り込む他ないだろう。 『是枝 篤』 は老舗レコード会社のスカウトマンだ。あのときカウンターに置きっぱなしにしてしまった名刺を、悪意を持った誰かに見られてしまったのだ。
「行こう。アキ」
「お店は? 」
「臨時休業」
「・・・ごめんなさい」
「いいから。アキ、これから戦うんだよ、気を強く持って」
「はい」
小さな会社だったが一応、受付嬢がいたので、こう切り出した。
「今予約受付中のCD 『AKI』 の担当者の方にお会いしたいのですが」
「お約束は? 」
「ありません」
「どのようなご用件でしょうか」
「そのアキがお話があって伺った。と言っていただければわかります」
正司が業務用のスマイルで、まだ若い受付嬢をぽーっとさせる。
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