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「少々、お待ちください。・・・岩田プロデューサー、アキ様がいらっしゃってます・・・はい・・・・はい。はい」
「岩田さんという方なんですね」
「はい。あの、会われたことは・・・」
「あるんですが、名刺をもらい忘れまして」
「岩田がすぐ参りますので少々お待ちください」
受付嬢が正司にニコリと微笑みかけた。
「どうも」
「あ。きた」
確かにリオがガマガエルというだけの事はある。
「よくきてくれたねアキ君。CDの予約。順調だよ」
正司の腹の中も知らず、岩田は上機嫌だ。
「そちらの彼は? 」
「あ。店のマスターです」
「あぁ。そういえば、みたことのある顔だ」
がはは。
となにが面白いのか笑っている。
「CD発売の件でお話があるのですが、いまお時間よろしいでしょうか」
「え? もう2枚目発売ですかぁ? 」
がはははは。
「今回のCD。不当に制作されたものですので、発売中止していただきたい」
すっと岩田の表情が曇る。
「・・・・・・・もう世の中の人はアキの演奏を聴いている。発売されたも同じだと思わないかね」
「裁判になったとき、結果失うモンがデカイのはどっちだと思います? 岩田さん」
「世の中はアキを求めてるんだ」
「なんなものはアキじゃない。それに。アナタ、自分が失うもんのデカさが分かってないみたいですね・・・」
「ひっ」
正司が岩田の胸ぐらを掴み。顔を引寄せ耳打ちした。
「わ・・・わかった。発売は中止する。約束する」
「予約受付の撤収も早々によろしくお願いしますよ、 『是枝』 サン」
岩田はその場にしゃがみこんでいた。
「行こう。アキ」
「う、うん」
アキが振り向いたとき、まだ岩田はしゃがみこんだままだった。
いったい正司は岩田の耳元で何を言ったのだろう。
「正司さん」
「なんだい? 」
「なんて言ったの? 岩田さんに」
「現実を教えてあげただけだよ。悪いおじさんに。裁判に負けたら、懲戒免職と会社からの損害賠償。どんだけの額になると思う? って」
もちろん、尾びれ背びれたくさんつけて。
「ふぅん。でもなんで耳打ち? 」
「可愛い受付嬢に聞かれたら可哀相でしょう」
「可愛い? 」
「アキの方がずーっと可愛いけどね。さ。帰ろう」
会社を出ると、すっかり暗くなっていた。
「半端な時間になっちゃったね。お店。開ける? 」
「いや。今日はもう、疲れたから帰ろう」
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