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「ごめんなさい・・・正司さん」
「だから。それはもう」
「そうじゃなくてっ」
「アキ? 」
「う・・・ウザイなんて言ってごめんなさい」
「その話の続きは。家でゆっくりでも、いいかな? 」
数時間前に出た家なのに、数ヶ月ぶりに帰ってきた気がする。
ふたりは無言で掃除を始め、家具の並びも、食器の置き場所も、クッションの並びも、ベッドメイクも、全部元に戻した。
「たまには紅茶でも入れようか」
お揃いのマグカップを取り出しながら正司がアキに微笑む。
いつ話し始めても良いんだよ。の合図だ。
「正司さん俺・・・ね」
「うん」
「正司さんのこと好き・・・で」
「ありがとう。僕もだよアキ」
「で、でね。CDデビューって聞いて。俺正司さんに恩返しできると思ったんだ」
「恩返し? 」
「俺のこと、ピアニストにしてくれたの正司さんだから」
「あぁ」
「だから、なんで正司さんが反対してるのかわからなくて、邪魔されてる気がして。でも無理に作る気はなかったんだ。見学に来ないかって誘われた話はしたよね。それで弾いたピアノがこんなことになっちゃって」
「どうして聞いてくれなかったの? 反対してる理由」
「それは・・・。最初に是枝さんの名刺、捨てて良いって言われたときに違和感があって、なにが俺に説明されるべきものがあったんじゃないかなって」
テーブルの上に紅茶が湯気を立てて置かれる。空調の効いた部屋では真夏でもホットティーが体に染みる。
「だから直に是枝さんの名刺を見せられたとき、この人に聞けば話が早いんじゃないかと思って」
「それは。僕が悪かったね。ごめんよアキ」
「正司さん」
ダイニングテーブルの椅子に座るアキに対し、正司はシンクに寄りかかったまま話していた。
「今回のように 『新宿二丁目』 をウリにされるのは目に見えてたんだ。最初に来た老舗レコード会社でもね。スカウトマンの対応がなってなくてね。誠実さのカケラもなくて、とても契約させられたものじゃなかった。だからアキに言うほどのものじゃないと判断したんだ。でもそのことも含めて全部話せば良かったんだね」
「・・・うん。聞きたかった」
「僕はアキのマネージャー失格だな」
「でも、正司さんじゃなきゃやだよ」
「アキ」
「ねぇ。正司さんは俺の何? マネージャー? 恋人? お父さん? 」
「全部・・・だよ」
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