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抜けないピアス
まだ肌寒い四月。
背の高いガラス窓。洒落た暖色系のカーテン。
昼間だというのにカーテンが閉め切られているのは、ここに暮らすふたりが夜の仕事をしているからだ。
カーテンの色合いを透かして漏れる光は、部屋をやさしい色合いに照らし出していた。
さきほどからどこからともなく聞こえていた音楽がピタリと消えた。
そしてシャワーを止める音。
裸足でカーペットを歩く気配。
アンティークの大きな木枠に嵌められた鏡。
シャツ一枚の姿で全身を映しながら、アキはベッドに座りスタンドライトの灯りで文庫本を読んでいる正司に問うた。
「ねぇ。正司さん」
「なんだい? 」
「俺・・・ピアス開けようかなぁ」
「・・・え?」
「オシャレかなぁって思って。正司さんはどう思う? 」
「どう・・・って」
「なんで困ってるの? 」
「アキ・・・どこにピアス開ける気だい? 」
「!?」
アキの顔が見る見る赤くなる。
「耳だよ耳! 正司さんのエッチっ」
「そんな格好で全身鏡に映しながら言われたら勘違いもするだろう? まぁホッとしたけど、でも」
「でも? 」
「僕はあまり好きじゃないかな」
「何で?」
「愛撫するとき邪魔だから。そのままの君が好きだから」
「小さな穴で俺が変わっちゃうの? 」
「せっかく可愛らしい耳たぶをしているのに、穴をあけてしまうなんて。もったいない。・・・でもこれは僕の気持ち。押し付ける気はないよ」
「俺・・・正司さんに開けてもらおうと思ってたのに」
「僕にかい? どうして」
「俺の運命。変えてくれたヒトだから。知ってる? ピアスって運命変わるらしいよ」
「また変わったら今度は離れてしまうかもしれないよ? 」
「あ。そか。なんかでも、いい予感がしたんだけどな」
「僕には出来ないよ。どうしても開けるなら、ちゃんと病院にいっておいで。危ないから自分でやってはいけないよ。いいね」
「・・・うん・・・わかった」
ベッドに上半身だけもたれかかってアキは気のない返事をした。
「おいで」
正司が上掛けを開いて温かいベッドに迎え入れる。
「あぁん」
耳朶を食まれ耳の中を丁寧に舐められる。
アキは快感から来る寒気にぶるりと体を振るわせた。
アキがシャツのボタンを自分で解こうとすると。
着たままで良いよ。とてもセクシーだ。と正司が首筋にくちびるを沿わせる。
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