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「・・・・んっ・・・・・アキは後ろからキスすると締まるよね」
「わかんな・・・あ・・・あん・・あっ・ああっ」
ゆるやかな快感に居心地良さそうな恋人を、急ピッチで追い立ててゴールまで導いた。
「もう・・・なに・・・急に」
「なんか気持ち良さそうだったから」
「だから? 」
「ヤキモチ、かな」
「なにそれ・・・正司さん」
「もう一回するかい? 」
「じゃあまた後ろからがいいな」
「前からは嫌? 」
「気分が・・・ね」
「泣き顔見られたくない? 」
「泣いてないよ」
「うそつきだね。バスルームでも泣いてた」
「そんなのわかるわけ」
「わかるんだよ。瞳をただ水で濡らしたのと、涙腺を通って涙が溢れたのとでは見た目が全然違うんだ」
「!?」
「こんなに想われてるのに僕はキミを突き放すんだね」
「・・・そうだよ。正司さん。アナタはとても残酷な人」
「残酷な人はキライかい? 」
「・・・好きです。正司さん」
ベッドに座った正司の背中にアキが腕を回す。
「ちゃんと大人の男になって帰ってくるから」
「そんなことはいいから。ピアノのことだけ考えて生活してきなさい。海外で一人暮らしすれば少しは感覚も変わるよきっと」
「・・・そうだね」
「あ。そうだ、ちょっと待ってて」
正司がガウンを羽織り、リビングへと消えた。しばらくして戻ってくると。
「これ。お守り」
ちいさな化粧箱を開けてみると三本ほどのヘアピンがキレイに並んでいた。
「ヘアピン? 」
「だいぶ前髪が伸びてきたみたいだから。それと大切な人と別れなくてはいけないときの気持ちが込められてるから」
「あ。SIRAGESIって書いてある」
「アキはその句の意味を知っていたかな? 」
「たしか・・・白い芥子の花にとまった蝶が飛び立つときに花びらが一枚落ちて、それがまるで芥子の花との別れを惜しんだ蝶が羽を形見にもいだようだって、訳だったよねぇ」
「そう。 『白芥子に羽もぐ蝶の形見かな』 。でね。この句は芭蕉さんがあるお弟子さんとの別れのときに詠んだものなんだ。旅の途中でね、どうしてもそこで別れなくてはならなくて、その身を切られるような切なさを詠んだんだよ」
「そのお弟子さん、恋人? 」
「諸説いろいろあるらしいよ」
「ふーん」
アキはヘアピンを弄んでいた。
「僕の気持ちも、わかってくれたかな? 」
「うん。・・・ありがと」
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