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「あと。見送りと、出迎えは行けない。ごめんよ、アキ。平常心でいられる自信がないんだ」
「・・・わかった」
「ここで、待ってるから」
アキが首を縦に振る。
「ねぇ・・・正司さん。これってピアスのせいかな」
「え? 」
「ピアスで運命変えちゃったのかな俺」
「・・・ピアスがなくても。僕はアキに溺れ、愛の奴隷になっていたよ」
「俺も。そんな気がする」
「・・・・・・」
みつめあって、吸い寄せられるようにくちびるを合わせた。
好きだ。好きだ。好きだ――
その強さがわかるからこそ。いまは一緒にいてはいけない。
そうしてもろもろの準備が整ったアキは、アメリカへと旅立って行った。
そして久しぶりに、ピアニスト不在の店が開く。
やはり初めの頃はCD効果で冷やかしの客も来たが、なにしろピアニスト不在なのだから来ても意味がない、そんなウワサがざぁっと流れ。
あのCD騒動は思ったよりも早くけりがついた。
アキのいない日常――
アンティークのグランドピアノを撫でながら、店じまいした店内で正司はアキの帰りを待つ。ひとり、胸を焦がしながら。
おわり
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