【 5 】逡巡と迷いと現実と

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「手術は急いだ方がいいのですが」  医師は言う。  ですが、って何?  痛さで鈍感になった意識の中、彼女は答えを促す。 「子供さんはどうしますか」 「は?」  子供?  あれだけ痛かった下腹が、瞬時におとなしくなった気がした。言われている意味がわからない。  あほうのように口をあんぐり開けたままの彼女に医師は言った。 「妊娠していますよ。専門ではありませんので確実なことは言えませんが、九割方、間違いなく」  気付かなかったんですか? と問われた。 「だって、生理が少し遅れているだけで、前回は普通に来ていて……」  彼と別れて、さほど時間が経っていないし、と内心で思う。 「ああ、それなら二ヶ月に入っていますね、前回の生理日から数えで月数を数えるんですよ、初めてならわからなくても仕方ありませんが、どうしますか」  どうするもこうするも。  消えたと思った痛みが倍になってやってきた。  我慢なんて出来そうにない! 泣けてきそうだ! 「先生、助けてください」  茉莉花は哀願する。 「子供を――お願い」  心の中で叫んだ。  慎さん、助けて! と。
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