第1章

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「――ところでよ」  ふと口を開いたのは次元だ。  信号がチカチカと点滅したのを確認し、歩行者用の信号が赤に変われば、車用の信号が青に変わる。  エンジンをかけて直線の道路を走っているのにも関わらす、一向に値段のメーターが上がっていない事に次元が気が付き、一瞬躊躇いはしたものの、声を掛けられずにはいられなく、遠慮気味に運転席に居るルパンに声を掛けた。 「何でメーター上がってねぇんだ?」  次元が指を差して言った事にルパンは恥じらいも怒りも含めることなく、むしろ嬉しさを含めた表情で「だって、愛しの次元ちゃんをルパン邸に招くのに、お金とっちゃいけないでしょ?」などと言っているのだ。  馬鹿だ。次元は口の中でそう返答し、懐から煙草を取り出したところでルパンが車内用の小型の換気扇を回す。 「あのねぇ……。他のお客さんも乗るからあんまり煙草吸わないで頂戴」  自分の事を棚に上げて何を言っているのだとこの場に銭形や五右ェ門、不二子が居たらそう思うか言うだろう。  だが今回のこの『仕事』に不二子や五右ェ門は居ない。  ルパンが何度か誘ったのだが、全て不二子の「いーや!」の一点張りで幕を閉じた。 「さて、もう着いたぜ」  ゆっくりブレーキを踏み、徐行させて、車を止めると勘定中と書かれた電光掲示板に変え、「俺の今日の稼ぎと次元ちゃんの稼ぎが合計で5万円とちょっとで……」と今日一日の集計をしている。  手を抜いたらこのぐらいか、逆に手を抜かずにすればもっと稼げるのだが、本業以外真面目にする気はなく、適当にやっている。  今回の仕事は『タクシー運転手』に成りすましながらも、盗みを実行する、というのがルパンのシナリオだ。  その為、毎日どちらかの仕事が終ればそこで終了で、アジトに戻って作戦会議や、報告等などを済ます。  ドアを開け、次元が出たのを確認し、ルパンは車を倉庫に直しに行って、戻ってくる。 「じゃ、まずは、情報提供から始めますか」  ルパンの声と共に、グラスと酒が取り出されて、いつもの様に、時間をかけた仕事の打ち合わせが開始された。
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