降り注ぐ光の下で

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「ゆい、ゆい?大丈夫、大丈夫だよ…遅すぎるなんて事は、人生にはないんだよ」  泣きじゃくる私の背中をゆっくりと撫ぜながら、実日子が優しい声を出す。 「…欲しいものは欲しい、それでいいじゃないですかっ!」  香織が精いっぱいの声を上げた。ありがとう、優しい友人たち。 次の日に熱が出たけれど、解熱剤で夜には下がった。 「…行った方がいいよ、ちゃんと会って、話しておいで」  ずっと挙動不審の私に、実日子がとつとつと語りかける。 「大丈夫ですよ、私も一緒に行きますからっ!」  いつもと変わらず、元気いっぱいの香織が、少し頬を強張らせながら請け負ってくれた。  翌日、二人の言葉に背中を押されて、さらに香織に事務所まで迎えに来られて、私は昼過ぎには宝木くんの個展が開かれる小学校に来ていた。  八月の暑い日射しを浴びて校庭を横切り、校内に入った途端にひんやりとした空気にすごくほっとした。  下駄箱の並ぶ入口の突き当りには、子どもほどの大きさのある奄美大島の浜辺で拾った流木のオブジェがもう設置されていた。  おざなりに置いてあったスリッパを借りて廊下を行くと、斜めに日が射し込む窓辺にいくつもの段ボールが口を開いて置いてあった。その中に、おがくずと一緒にいれてある木彫りの小さな亀に、香織ははしゃいだ声を出した。廊下の突き当りの渡り廊下を通り、大きく入口が開かれた体育館に向かった。入口からは画の搬入を終えた運送会社のトラックが離れる所だった。 「すいません!」入口に顔を出したランニングシャツの男の人が、咎めるような声で私たちに呼びかけた。「今取り込んでいるから、関係者以外立ち入り禁止…」  頭に派手な柄の手ぬぐいを巻いた、良く日に焼けた漁師風の男の人が、香織を睨みつけてから私へと視線を巡らせたとたん、言葉をフェイドアウトさせた。  口をポカンと開けて、私の顔をじろじろと見た後、体を翻して体育館の中に消えた。 「何、あれ?失礼な奴ですね」  香織は持ち前の物怖じしない性格で、注意された事など頓着せずに、さっさと体育館の中に入った。  …芸術学部によくいるタイプだ。物怖じせず、初めての場所でも初対面の人でも、ずかずかと入り込む。それで、たまに怪我をする。 「香織、誰かに聞いた方がいいんじゃない…」
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