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髪を乾かすのを途中で止めた。暑くて汗かいちゃいそうなんだもん。せっかく温泉に入った意味がない。 髪をざっくりと纏めて、ごく薄くメイクを始めた。 私のことをどう思ってるか聞いたら、部長はどんな答えをくれるのかな? 彩星は、どう思ってほしいの?だって、質問に質問で返しそうだなぁ。 だって、部長は意地悪だもん。 赤い暖簾をくぐって、来た道を戻ると、廊下を通る夜風が火照った身体を程よく冷ましてくれる。 少し進んだところで、思わず息を飲んだ。 背凭れの無いキューブ型のソファーに座って、缶ビールを飲んでいる後ろ姿は、部長に間違いない。 直視できなくて、俯いてドキドキを抑えようとしたけど、指先に掛けていたメイクポーチを落としてしまって、鈍い音が響いた。 「そこで何してんの?また俺のこと観察してた?」 こっそりバレないようにしたかったのに。 「……すみません、遅くなりました」 ポーチを拾って、下駄から覗くペディキュアを見ながら歩いていくと、視界に部長の足が見えて、そっと顔を上げた。 「浴衣、似合ってる。夕食、部屋に出してもらうから、部屋でのんびりしような」 ヘーゼル色の瞳で微笑んでいる部長は、まだ少し濡れた髪が色っぽくて、またしても一撃で射抜かれてしまう。 戸惑いながらも、差し出された手の指先だけを掴むと、指を絡めて繋ぎ直された。 やっぱり……やっぱり、私、部長のこと好きです。 意地悪で、優しくて、でも仕事になると厳しくて、時々強引で……。 部長のこと、まだまだ知らないことばかりだけど……好きです。
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