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○月○日
拝啓 武幸宏様
お手紙、ありがとう。
うれしくて何度も読み返しました。
健やかにお過ごしとのこと、安心しました。
東京は、ご指摘通りの暑さ。時折氷を買ってきて涼を取っています。
私も叔母も元気です。お気遣い、うれしく思います。
叔母が田舎に帰っている間は家に立ち寄ってもらえないと残念がっています。彼女、あなたのファンなのですって。
私はこの休みの間にオルガンの練習先を探しています。ご存知の通り、小学校教育では鍵盤楽器を弾く機会がありますから。復習が必要です。少し得意だったけれど、もう何年も弾いていないから指がなまっています。
まだまだピアノの教室を持っているところは少なく、鍵盤楽器を置いてあるところも思ったほどありません。近所の学校かピアノの先生、場合によっては教会に貸してもらえないだろうか聞いてみようと思っています。
でも、信者でもないのにオルガンだけ貸してくれるかしら。ずうずうしいと神様に怒られてしまうかもしれません。
最初にも書きましたけど、本当にお手紙、うれしかった。
左手で書かれた文字なのに、不思議と武君の字になっているのにびっくりしました。文字は書く手が代わってもその人を現す鏡になるのね。
慣れない左手で怪我をかばって便箋に文字を書くのはどんなに大変だっただろうと思うと、かわいそうで目が離せなくて。指で文字のあとをたどりました。
少しでもいいから、あなたの痛みが和らぎますように。代われるものなら代わりたい。一日も早い快復を祈ります。
御身大切に。ご自愛にもご自愛につとめられてください。
ご家族の皆様によろしくとお伝えください。
草々
野原幸子
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