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「世話になった、助かった」と電話の向こうの声は言う。
「僕への連絡はいいから。なるべく早く帰ってやんなさいよ。息子さん、参ってるよ」
「ああ」
国際電話は微妙に間が空く。
鋭い意見の応酬には向かない上、もどかしさも倍増する。
「武先生の機転には言葉もない、先生の家に足を向けて寝られそうもない。息子も随分頼ったようだ」
「そりゃ、放っておけなかったからだよ。図体が大きい男の子がだね、ズボンの裾と膝頭に泥をつけて校内歩いてたら何事と思うだろう? 僕の部屋でお茶飲ませてどうしたの、と訊ねたら、今朝猫が死んで埋めた、って言って泣くんだもん。彼、泣き虫なのかい?」
「都は――猫は、息子と茉莉花が可愛がっていた。ダブルでショックを受けたのだろうな」
手で顔を撫でながら話しているのだろう、声がくぐもって伝わる。
「あれの兄にも一報を入れてある。弁護士を通じて連絡が来たと言っていた。私が戻るまでは対応をしてもらえるだろう」
「慎一郎君は、伯父さんがいることは……」
「知らない。彼たっての頼みだ。茉莉花にもわだかまりが少なからずあってね、本人の意思を尊重したい」
「はあ、難しいね。もっとシンプルに生きたまえよ」
ああ、心がける、と慎は言って受話器を下ろした。
ホント、子供を泣かせる親にはなりなさんなよ。
武は思う。
子供は、親を選べないんだからさ――
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