1970年・秋 6

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「世話になった、助かった」と電話の向こうの声は言う。 「僕への連絡はいいから。なるべく早く帰ってやんなさいよ。息子さん、参ってるよ」 「ああ」  国際電話は微妙に間が空く。  鋭い意見の応酬には向かない上、もどかしさも倍増する。 「武先生の機転には言葉もない、先生の家に足を向けて寝られそうもない。息子も随分頼ったようだ」 「そりゃ、放っておけなかったからだよ。図体が大きい男の子がだね、ズボンの裾と膝頭に泥をつけて校内歩いてたら何事と思うだろう? 僕の部屋でお茶飲ませてどうしたの、と訊ねたら、今朝猫が死んで埋めた、って言って泣くんだもん。彼、泣き虫なのかい?」 「都は――猫は、息子と茉莉花が可愛がっていた。ダブルでショックを受けたのだろうな」  手で顔を撫でながら話しているのだろう、声がくぐもって伝わる。 「あれの兄にも一報を入れてある。弁護士を通じて連絡が来たと言っていた。私が戻るまでは対応をしてもらえるだろう」 「慎一郎君は、伯父さんがいることは……」 「知らない。彼たっての頼みだ。茉莉花にもわだかまりが少なからずあってね、本人の意思を尊重したい」 「はあ、難しいね。もっとシンプルに生きたまえよ」  ああ、心がける、と慎は言って受話器を下ろした。  ホント、子供を泣かせる親にはなりなさんなよ。  武は思う。  子供は、親を選べないんだからさ――
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