【 6 】兄 還る

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待ったなしの日々  入院後、即手術となった盲腸炎自体は大騒ぎするほどではなかったが、彼女の身体におきたもうひとつの問題、妊娠は、周りは黙っていられる筋合いのものだとは思っていなかった。  手術が済んで病室に横になる彼女の元には、招かれざる客が来る。  会いたくない三郎兄、会いたくない親、会わす顔のない祖父母……。  特に三郎兄への印象は最悪だ。八つ当たりとわかっていて内心で叩く。諸悪の根源は、あんただと。  そして殊勝に謝るのは祖父母へ。ごめんなさい、と祖父母には何度詫びても言い足りない。  盲腸とは別の、術後の痛みで不快な上に、不機嫌な顔を見せられては、気分も悪くなろうというもの。 「容体はどうだね」  わかりきったことを聞かれる。  さっき切ったところなのに、良いわけないでしょう! とは言えないから、「おかげさまで、今はもう」と答えた。 「子供がいるそうだな」 「ええ。元気ですわ」  これは本当だ。  盲腸の手術にひるむことなく、芽生えたばかりの命は彼女の中にしっかりとしがみついていた。  往々にして良くあることですよ、心配いりません、とは執刀医の話だった。  まっ先に「ああ、良かった」と安堵した。  生きていてくれて良かった、と。  思ってしまったのだから、仕方がない。引き受けなければ。 「残念だったな。流れてしまえば楽だったのに」  言ったのは三郎兄だ。 「どこの馬のホネかもわからない子供を孕むなんて。恥さらしの極みだな。もちろん、堕ろすんだろ」  言うに事欠いて、何て事を言うのだ。 「いいえ」  茉莉花は断言する。
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