第1章

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何処からか桃色の花弁舞い散る中青々と茂る緑色の絨毯に身を委ねる様に倒れ込む嘗ての"アイドル"、ピーチ・マキの名を名乗る彼女が周りを明るくさせる笑顔を振り撒いて居た筈の其の表情は今や苦し気に眉間に皺が寄っている。 綺麗に着飾られた衣装はじっとりと嫌な汗で身体に張り付き、帯の締め付けでさえも彼女を苦しめる。少しでも呼吸を楽にと震える指先で必死に緩めるも胸の苦しみは一向に治らず時偶襲われるズキリとした痛みに苦痛の声漏らす中彼女は脳裏で己の最期を悟った。 今迄は症状も薬で最小限に抑えてはいたものの既に彼女の身体は限界を迎え医師からも首を横に振られる始末、其れでも最後まで精一杯生きようと決意した彼女は仕事も続行し想い人にも己の感情をぶつけた。 其の結果晴れて二人は結ばれる....も、彼は地獄での仕事に常日頃追われ打ち合わせで顔を合わせる事はあっても中々丸一日会うという機会は無かった。 今日も恐らく彼は仕事で手一杯だろう。 本当に私の事を想ってくれて居るのか、残り少ない生に同情して共に居てくれているだけなのではないか? 意識が朦朧とする中遂に彼の感情までを否定し始める己の思考にグッと釘を刺すと仰向けて空仰ぐ。 地獄の重い空とは違い爽快に晴れ渡る天国の空、発作が出た時にはみんなに心配を掛けたく無いと撮影所を飛び出したものの今迄の思い出蘇ると急に侘しさ込み上げてツンと鼻が痛む。 嗚呼此れが走馬灯か。鬼が死んだ後は永遠の暗闇なのだろうか、 ____愛しい人は私が居なくなったとしても変わらずに今まで通り生きて行くのだろうか。 意識手放す寸前脳裏に彼の仏頂面を思い浮かべては寂し気に、もう一度だけ会いたかったと思考すれば自然と彼の名を口走って居た。 「______鬼灯様、」 「はい、何ですか?」 聞き慣れた彼の声、遂に幻聴まで聴こえる様になったのかと溜息吐き出すも久々に聴く愛しい人の声に自然と一粒の涙が溢れた。 其の雫を彼の硬い、然しとても暖かい指先が拭い取り...........、 と 此処で思考は一時停止。先程から痛みで悲鳴を上げて居た身体をガバッと勢い良く起き上がらせ伸びる腕先目線で辿って行けば其処には.....愛しい、会いたいと懇願していた"彼"が居た。 「っ、鬼灯様.....どうして此処に?お仕事中じゃ無かったんですか?」
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