第1章

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 三人よれば文殊の知恵と言っていたのは誰だったか。誰でもいいが、小学生に嘘を教えるなんてろくな人間じゃない。  そうこうしている間にも陽はどんどん真上へ昇り、このままではいたずらに時間と汗が流れるだけだと思ったとき。太陽が尋常じゃないほどの大声で叫んだ。思わず秀也とふたりして耳に指を突っ込む。太陽のTシャツにとまっていたセミも驚いたのか、全て空に飛んでいった。  「急にでっかい声出すなよ!」  秀也が容赦なく太陽の頭をはり倒す。裕太の脳内にはいまだに太陽の声が反響していた。叩かれた勢いで前のめりになった太陽は特に気にする様子もなく勢いよく顔を上げた。  「俺知ってる! ある程度涼しくて、静かで、勉強するスペースがある場所だろ?」  「言っとくけど、お前がいても大丈夫な場所だからな」  秀也の辛辣な言葉に気を害した様子もなく、太陽はぶんぶんと首を縦に振る。  「あったりまえだよ! 俺がどんなに騒いでもわめいても誰の迷惑にもならねー場所だぜ!」  「どこにあるのさ、そんな場所」  身体中にまとわりつく汗がうっとうしく、無意識に声にトゲがまじる。普段から勉強をするような太陽ではない。彼がそんな場所を本当に知っているかどうか疑わしかった。  「行けばわかるって! こっちだ!」  言うが早いか、太陽は突然走り出した。野生児と称される彼の足の早さは学年でもダントツで、あっと言う間にその背中は遠くなった。あまりに突然のことで一瞬呆然としてしまったが、太陽はこちらがついてきているかどうかなど気にかける様子もなく、どんどん後ろ姿が小さくなっていく。あまりにマイペースな行動に呆れないではないが、いつものことすぎて逆に笑みが溢れる。  裕太は引き離されてはたまらないと、自分も強くアスファルトを蹴った。  「おい待てよ!」  後ろから焦ったような秀也の声が聞こえる。しばらく迷っていたようだったが、それでも追ってきたことはすぐにわかった。彼の走るテンポは良く言えば独特で、聞いただけでもわかる。  前を走る人間を追い越したいと思うのは当たり前だ。裕太はにっと口の端をつり上げると、太陽の背に追いつこうと更に足に力を入れた。  「本当にここ……?」  「おう! 俺が見つけた秘密の場所だ」
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