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「つくぞ!」
太陽の大声が聞こえたかと思うと、唐突に木々が途切れたようになくなり、視界が広く明るくなった。暗闇に慣れた目に大量の光が飛びこみ、あまりの眩しさに目の前が一瞬白く染まる。思わず閉じたまぶたをゆっくりと開くと、そこには一面の緑が広がっていた。
やわらかい風が頬をなで、それにあわせて草が波うつ。その中央には桜のように淡い桃色をつけた大樹がここの主であるかのように悠然と在った。
林の中とはまるで違う光景に見入っていると、背後からがさがさと音をたてて秀也が転がり出てきた。しわひとつなかった服にはべったりと泥がつき、ところどころに穴まで開いている。しばらくぜいぜいと荒い息をくり返していた秀也は、何度かつばを飲み込んでからようやく目の前の光景に気づいたようだった。らしくもなくぽかんと大きな口を開けている。
「なんだ、ここ……?」
穏やかにそよぐ風は、夏だというのにじっとりとした感はまるでない。それは春か秋でもあるかのような涼やかな心地よさだ。
太陽はスキップを踏みそうなほどの陽気さで中央の樹に近づいていった。なかば呆けたままの心持ちで裕太と秀也もその後に続く。近づいてみればどうやら桜ではない。その高さはゆうに三メートルを越し、幹もそれに負けないほど太い。枝はつる状に長く延び、地面につきそうなほど垂れ下がっている。そして何より特徴的なのはその葉だ。桜かと見まごう桃色は花びらではなく、子どもの手ほどもある一枚の葉だった。
「これ、何の樹かわかる?」
何気なく尋ねると秀也は汗を拭いながら小さく首をすくめた。
「植物のことはよくわかんねーよ。どっちかというとこういうのは太陽だろう」
引き合いに出された太陽は太い幹に背中を預けて座り込んでいた。
「俺にも良くわかんねーんだよな。枝だけみると藤によく似てんだけどよ、藤の葉はこんな色じゃねーし、もっと小さいよな」
「まあともかく」
呼吸も落ち着き、ようやく秀也も調子を取り戻したようだ。いつものすました表情で太陽の隣に座りこむ。
「勉強するのに樹の種類なんてどうでもいい。ある程度終わらないとおまえら帰れないんだろ?」
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