第1章

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 そういうと秀也は先ほどまで読んでいた本をぱらぱらとめくって、挿し絵のついているページを見せてきた。太陽と一緒にのぞき込むと、白黒ではあるが、確かにそこには目の前の葉とよく似た形の葉の写真がのっている。その写真の下の方には小さく『タラヨウ』と書いてあった。  「……何の本読んでるのさ」  裕太の問いかけには答えず、秀也は開いていた本を閉じる。その背表紙には『手紙の歴史』と書いてあった。いったい彼がどこへ向かいたいのかがわからない。  秀也は草の上に散らかしたままの太陽のシャープペンを拾い上げると、芯を出さずにそのまま何か葉の裏に書き出した。そして葉の裏を向けてふたりに差し出す。そこには濡れたような濃い桃色で『タラヨウ』という文字が浮かび上がっていた。  「なんだこれ! うおーっ、すげーっ」  秀也の手から太陽がひったくるように葉を手に取り、しげしげと見つめる。鮮やかな色をしていた文字はしばらくすると茶色く変色し、乾いていく。するとペンか何かで書いたかのように、薄桃色の葉にはくっきりと茶色い字だけが残った。 「裏に字が書けるっていうところは同じでも、それ以外がまったく違うな。こんな風にツルが伸びるなんて書いてない。少なくとも同じ種類ではないだろうな」  結局のところ、よくわからないらしい。だがそこまで真剣に頭を悩ませる必要のある問題でもない。  「そろそろ帰ろう」  陽はすでに沈みかけている。夏の陽は長いが、そう思ってぼやぼやしているとあっと言う間に暗くなってしまうものだ。  太陽は宿題が終わって浮かれているのか、無駄に大きな声で同意する。それに対して秀也の表情は浮かない。  「どーしたんだよ秀也。何か気になることでもあるのか?」  「……まさか、来た道をそのまま戻るつもりじゃねーよな」  先ほどまで得意げに雑学を披露していた秀也の表情は固まっている。  「あたりまえじゃん。さっきの道以外しらねーもん」  何を当然のことを、とでも言いたげな顔をする太陽。はたして通ってきたあれが道なのかどうかはおいておくとしても、太陽についてくるので精一杯だった裕太はここが外から見た林のどのあたりに位置するのかさえ知らない。秀也も同じようなものだろう。そうなれば道を知っている太陽を頼るほかはない。そうこうしているうちにも陽はどんどんかたむき、林の闇は深くなっていく。
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