第1章

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 無音だった夕暮れの街に、不釣り合いなほど明るい音楽が流れ出した。最初は気のせいかと思うほど小さな音。だがそれはしだいに大きくなり、鼓膜を破りそうなほどの大音量になる。なんとかその音を止めようと裕太は手を振り回した。  手に何かが当たった。そう思ったとたんにそれは吹っ飛び、一段と派手な音を立てて静かになる。  ぼんやりした頭で薄目を開けると、床に転がった目覚まし時計が目に入った。母が買ってきた戦隊ものの目覚まし時計。ベルのかわりに毎朝暑苦しいテーマソングで起こしてくれる。  目覚まし時計は落ちたときの衝撃でふたがはずれてしまったのか、単三電池が二本、ころころと転がっていた。  あれ、夏休みなのになんで目覚ましかけてたんだっけ。  はっきりとしない頭で考えようとするが、重いまぶたがどんどん下がって思考を邪魔する。  ああ、もうどうでも良いか。眠い。眠すぎる。後で誰に何を言われようが関係ない。この眠気に逆らわなければいけないほど大事な用なんてあるわけがない。きっとそうだ、そうにきまってる。  なけなしの理性でなんとか持ち上げていたまぶたは、心の中で二度寝の言い訳をあげるたびにどんどん下がっていく。気持ちのいいまどろみに引き返そうという寸前、鼓膜を突き刺すような電子音が耳に飛び込んできた。  あまりの音に反射的に飛び起きる。心地よく手招きしていたまどろみは跡形もなく吹き飛んだ。はっきりと現実に戻ってきた頭が、二度寝防止のために大音量の目覚まし時計を昨日父に借りていたことを思い出す。  部屋の壁を揺らすほど響く音。自分のものとは正反対の飾り気のない目覚まし時計を止め、夏休み中ずっと開けっ放しになっているタンスから、適当にTシャツと短パンを引っ張り出す。ほかにも何枚か床に落ちたが気にしない。帰ってきてから拾えばすむ話だ。帰ってくるまで覚えていればの話だけれど。  夏休み最終日。八月も終わるというのに空に輝く陽の光が弱まることはなく、連日三十度を超える真夏日が続いている。
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