第1章

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 美しく着飾った女たち。艶やかな着物を身にまとい、行灯が淡く照らす部屋の中で往来を見つめる。赤い格子から外を見つめるその姿は、空に憧れる鳥のようである。彼女らを取りとするならば、紅の格子はさながら彼女らを閉じこめる檻だ。だが閉じこめられているだなどと彼女らはみじんも感じさせない。鷹揚に格子の中で足を崩し、時おり道行く男へ白い手を伸ばして呼びかけるその姿は、飼われている猫のようでもある。仕方ないからここにいてやるのだ。気が向いたら遊んであげよう。そんな雰囲気さえ彼女らは持っていた。  上下を赤い格子でぴっちりと閉じられた部屋を横目に見ながら、陽と佐吉は明かりのない闇色の路地へ回った。  神経を張りつめながらも身を任せていると、佐吉が立ち止まった。がらりと引き戸を引く音が聞こえると、賑やかな音が華の耳に飛び込む。  「おい! とっくに熱燗あがってんだ、早く持ってけ!」  「さっきお帰りになった旦那の座敷は片づけたのか? あ? そっちじゃねえ、東雲花魁のはす向かいのだよ!」  「ちょっと板! 煮物がぬるかったよ。自分らの仕事くらいきっちりしなんし!」  様々な大声が飛び交い、そこに包丁の音や火がはぜる音があわさる。遠くからは三味線のような音が聞こえ、そうかと思えばどっと大きな笑い声が響いた。  「東雲は?」  陽の鋭い声が飛ぶ。それに答えたのは甲高い子どもの声だ。  「滝川様のお初会でまだ茶屋におりんす」  「そう。仮病でも使って戻ってくるかと気をもんだが、どうやら杞憂だったみたいだね。ああ、呼び止めて悪かったね。旦那様が待ってるから早く行きな。今日は座敷で寝るんじゃないよ」  「わかっとりんす!」  ムキになったように叫び、軽い足音が消えていく。  「佐吉、その娘は東雲の部屋に置いといで。あんたにだって仕事が山ほどあるんだからね」  「……怪我」  「死ぬような怪我じゃないだろう。全く、忙しいのに誰も彼も何考えてんだか」  小声でぶつぶつつぶやく陽の声が遠くなる。  「部屋、つれてく」  肩越しに華の目を見た佐吉はどこまでも無表情で、何を考えているか全く読めない。だが人が大勢いるからだろうか、それとも佐吉が女に興味を持っているように見えないからか、命の危険を感じることはない。それよりも、いったいいつになったら目が覚めるのかということが気になって仕方がなかった。
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