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どの会社へ行っても、佐藤部長は大人気(男性社員のみ)。
下へも置かない心意気で、必ず高そうな応接室へと通され、ソファーには佐藤部長の場所だけ柔らかい埋もれそうな座布団がある。
「君は世界一の果報者だよ」
「佐藤さんと組めるなんて、金銀財宝をいくら積んでも無理だからね」
訪れた先々で、社長や重役の方がアポなしでも嬉々とし、他を無視してでも直接会ってくれるが、決まって嫉妬混じりで僕に微笑みかける。
「私も良い人で助かってるのね。だけど、私も二人分のノルマを契約しないといけないのね……」
佐藤部長もどこまでが演技で、どこまでが地なのか謎だが、困ったうるうる泣きそうな表情に、相手は大抵この時点で力強く体を前へ乗り出す。
その姿は、時に肉食獣の雄が気に入った雌に己の力を誇示するかのようにも見える。
そんな彼らが『どんな話でも聞きましょう』と言わんばかりのオーラを毛穴から噴出し、次なる佐藤部長の言葉を鼻息荒く待っている。
「私のノルマだけどんどん上げられちゃって、以前の5倍になったのね」
「ほう…5倍に……このご時世、大変だ」
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