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「それじゃあ、あとはここに私の判子を……と」
佐藤部長は『ポチっとな』と、楽し気に手のひらのわりには大きく立派な印鑑を僕の上の段に押しつけた。
「御立派な印鑑ですね」
「十年以上使ってるのね。初めて一人で接待した会社の社長さんが、その年何故か誕生日にくれたのね♪『男の価値は地位と名誉とサイズで決まるんだ』って言ってたのね」
部署内に一瞬にして緊張が走る。
「そっ…その社長さんとの関係は?」
その中で勇気ある先輩の一人が、血走った目で迫ってきた。
「関係?意味がわからないのね。取り引き会社の社長さんだったくらいで……そうだ、あやとり仲間ではあったのね。上手だったのね」
困った顔から晴れやかな顔であやとりの仕草をする佐藤部長を見て、何人かの先輩が『俺も極めておくんだった』と机を叩く。
「その社長さんとは今も?」
「その後すぐに、『邪念に満ちた自分が許せない』って、息子さんに会社を譲って旅人になったのね。今も世界のどこかで修行しているらしいのね」
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