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「す……すみませんでした!僕が……僕が……」
立ち上がり深々と頭を下げる僕に
「私が悪かったのね。彼のせいじゃないのね」
輪の中心から部長の高い声が聞こえた。
「すまなかったのね。今日は愛車の補助輪が溝に脱輪して引っ掛かってしまったのね。運の悪いことに人通りが少ない道で、私まで挟まって動けなくなってしまったのね」
「なっ……お怪我はありませんでしたか」
先輩方はまた部長を一斉に見る。
「たまたま通り掛かった人に助けてもらって、会社まで送ってもらったのね」
一同、ホッと安堵の息を吐く。
「それに、私は怪我はないけど毛がないのね。あははは…」
(さ……寒い…)
ブルッと寒気がしたのは僕だけのようで、みんな和やかに笑っている。
(社会人て……大変だな…)
うっかり口にしそうになり、口を押さえた僕に『今年我が部署に一人入った新入社員は君なのね?』と声がかけられた。
「はい」
「初めまして。部長の佐藤饅頭郎なのね。よろしくなのね」
先輩方の輪が開いた。
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