【 7 】おとぎ話の日々

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 次郎兄の存在は何かと助かった。  妹として、兄へのわだかまりは簡単に消えそうにない。でも、兄の存在は助けになった。差し当たって、経済面での心配はなくなったのだから。産むのも育てるのもお金がかかる。生活費のために出産をあきらめる女性は世の中にいくらでもいるというのに。  私は、意地だけで自分の望みを叶えようとしている。自立して稼ぐでもなく、虚勢を張るだけ一人前で、人の援助がなければ生きていけない。  私ひとりでは――。  祖母が小康状態になってほっとしたのもつかの間、今度は茉莉花が倒れた。切迫早産だった。もとから下り気味だった胎児守る為に、再びベッドに縛り付けられた。  産むには早すぎるから、もう少しお腹の中で育てましょう、と医師は言う。  ろくに出産準備もできていないのに。そんなに早くこの世に出てきたいの? 何てせっかちさんなの!  やっと落ち着いた頃に、一時的に外出を許された彼女が自宅で出産用品をまとめていたら、何と数時間で産気づき、大急ぎで戻った病院で、初産としては珍しく短い時間で子供を産んだ。  男の子だった。  安産で良かったですね、と腹の上に置かれた子は、赤黒くてとても小さかった。  おさるさんみたいだ、と思ったら涙が出てきた。  ぶーちゃんだなんて。とんでもない。  小さくて、細っこくて、けれど、産声は大きくて元気そのもので――。
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