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「なら、これからどうやって生活を支えていくつもりかな。今はまだ赤ん坊で小さいからいい。けれど、あっという間に大きくなる子供に必要なものは何だ? どうやって食い扶持を稼ぐつもりだ。お前は仕事も辞めてしまっただろう。霞を食って生きていくつもりか」
痛いところを突かれた。
そんなことはわかっている。何度も自問自答を繰り返したことだ。
「だって、身体の具合が本当に良くなかったのですもの」
「休職扱いにすれば良かっただろう」
「仰る通りですけど……結果論ですわ。あの頃は仕事を続けるなんて、とても……」
と答えながらも、茉莉花も早まって出した離職願いを後悔しているのだとは言えない。
「調べてみたが、慎は一介の講師の身分に似合わず、ずいぶんと羽振りの良い暮らしをしている。彼ほどの男ならお前と子供も養うぐらいわけがない」
「ですから、父親は慎さんではないと何度も言っているじゃありませんか」
妹の言い訳には耳を貸さず、次郎は続ける。
「相手の男にもこの子への責任と義務を負わせなさいと言っているんだ」
義務と責任。
私を信じろ、と何度も訴えていた彼の姿が脳裏に焼き付いている。
けれど、もし事実を知ったら彼は何というだろう。
――本当に私の子か? 『夫』の子供じゃないのか?
と、侮蔑の視線を投げる慎を夢に見て何度も目を覚ました。
私が彼を信じていないのに、彼が私を信じてくれるのだろうか。
こわくて一歩を踏み出せないで今まで来たのだ。
この逡巡を兄に理解してもらうのは難しい。
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