【 7 】おとぎ話の日々

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「それに、慎が手をこまねいて待っていると思っているのか」 兄の口調に不穏な動きを感じて茉莉花は眉をひそめる。 「兄様、あの人には伝えないで下さいとお願いしたはずです」 「なら、父親が慎だと認めるのだね」  一瞬言葉に詰まり、それでも、と茉莉花は続ける。 「ずいぶんと慎さんのことを良くご存知なのね。お友達でしたものね。資産状況まで。お詳しいこと」 「お前が言うなというから、僕はそれを忠実に守ったつもりなんだよ。お前には知らせていなかったが、慎は人を複数雇ってお前を探させている。おそらく、彼が九州へ渡ってから今日までに何度も。彼なりに努力をしている姿は哀れなくらいだ。今のところは誰もこの家を突き止めてはいない。お前たっての希望なのだから、高遠茉莉花という女の存在を世間から隠すように努めるしかあるまい」 心の奥底に、ほのかな光が灯る。慎さんが私を探している。 うれしい、と思う素直な自分。 まだ、初恋に身を焦がす女の子が自分の中にいるというのか。 けれど、今、兄は何と言った? 「探させている」と。「知らせないよう努める」とは? その言葉が意味するところは何? 厭わしいものを感じた妹は、物問いたげな視線を兄へ送る。次郎は微笑を送りながら言った。 「お越し頂いた皆さんには全てご退散頂いたよ」 「え、でも。来たのは……」 「人捜しをさせているんだ、ここがわからない本人が、直接乗り込むことはできっこない。警察へ捜索願を出すのでなければ依頼先の相場は決まっている。まあ、僕にすれば難しいことではない。たとえ本職相手だとしてもね」
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